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普段は賑わう筈の街道には人の姿は見受けられない。 その風景に馴染まない、和服に下駄という着崩れた風貌の青年の乾いた下駄の音だけが木霊していた。 寧ろ、自らの存在を第三者に見せびらかしている様にすら見える。 いや、実際そうなのだろう。 何せ青年の後方にもう一つ、物音も存在すらも感じない、正に影と呼ぶに相応しい者が確かに“居る”のだから。 やがて普段から人気の無い高架下に差し掛かると、ふと青年は足を止める。 常に一定の距離を保つその影も、間違い無く止まった様だ。 そして徐に懐に手を入れ、素早く振り返る。 そこには何も無かった。 当然だろう。 それは“影”なのだから。 「おっと」 懐から手を出した瞬間、小気味の良い金属音が鳴り響いた。 青年の後ろで交叉する小刀と鋭い銀色に光る三又の鉤爪。 微かに見える先端を見ると、それは触れただけで鮮血を散らせそうな程に研ぎ澄まされている。 「暗殺者ってのは背後から奇襲するってのが鉄則なのか?お約束過ぎて面白みが無いぜ?」 「グ…」 恐らく覆面でも被ってるのだろう、不自然に霞んだ声が聞こえた。 「そんじゃ、ツラ拝ませて貰うぜ!」 「っ!?」 後ろで構えていた小刀を前に振り下ろす。 それに込めていた力を殺す事が出来ず、影だった者は小刀と一緒に前のめりになり青年の目の前に姿を現した。 想像していた通り、全身を真っ黒な服装で包み、面が割れない様にだろう、奇妙なガスマスクを被っていた。 しかしその身体に違和感を覚える。 明らかに小柄、どう考えても少年としか呼べない程に小さかった。 諜報を業とする暗殺者が不自然に身体を縮める事はあるかもしれないが、目の前に居るこの者は、そういった類いの能力を持っている様には見えない。 「へぇ、本当にただの餓鬼か。俺も随分と舐められたもんだな」 「グ…ろく……」 「ん?」 「コロスッ!!」 鉤爪を素早く振り翳し、小柄な暗殺者は青年…六との距離を一気に詰める。 間違い無く常人には反応出来無い速度での奇蹴である筈…だった。 「甘いンだよ!」 だが六はそれを凌ぐ速さで袴の下に隠しておいた愛刀を抜く。 左手の親指で軽く峰を弾き、右手で刃を抜く。 暗殺者の目には、銀色の光の奇跡にしか見えなかった。 月明りを反射しながら自分に襲いかかるその光は― 恐ろしい程に美しかった。 瞬きする間も惜しい位、その輝きに魅入っていた。 「あ…」 次に暗殺者が見たものは、鮮明になった世界と地面に落ちて行く鉤爪だった筈の残骸だった。 根元からまるでスポンジケーキをナイフで切った様な、見事な断面図が出来上がっていた。 「餓鬼相手だと俺が手を抜くかと思っていたのか?悪いが命狙われて洒落で通す程俺は甘くは無いぞ」 「あ…うぁ……」 ガスマスクが完全に取れて、現実を直視出来ずに怯えている少年の表情が露になる。 「へぇ…」 最早打つ手無しの状態であろう暗殺者の少年を、六は舐め回す様に見つめる。 無造作に流れる様な銀髪。 小動物の様に怯えるあどけない顔立ち。 何より暗殺者には不向きな、純真を象徴する漆黒の瞳。 薄汚れてはいるが、軽く見積もっただけでも美少年の部類に入るだろう。 「なかなかの上玉じゃねぇの? ま、俺には関係無いけど」 「オ…マエ、も…」 「あ?」 「アイツらみたいにするのか?」 成る程と六は刀を収める。 暗殺集団に居るこのような子供が純潔を誇れるとは到底思えない。 それ相当の“相手”に使われていると考えて先ず間違い無い。 「馬鹿、俺には関係無いっつったろ。同時に、膾斬りにする様な趣味も持ち合わせていない。さっさと自分のお家に帰んな」 元の様に刀を袴の下へ納め、六は踵を返す。 この子供がこの後どうなろうが自分には関係無いし興味も無い。 腰が抜けて立ち上がれない暗殺者の少年を置き去りにして、六は自分の荒家へと戻るのだった。 「ろく…」 少年の呟きは、夜風に遮られて六には届かなかった。 「ちっ…やっぱ刃が欠けてら。こいつもそろそろ寿命かもな」 鉤爪の破片があればパズルの様に嵌りそうなへこみが刀身に出来上がっていた。 長年愛用していた刀である為に、六自身に取っても大きな痛手となる。 「ヤバ…根元からバッサリ殺られてやがる。もう一度打ち直すのは…俺には無理だな」 不貞腐れながら六は刀を鞘に収め、枕元へ放り投げた。 そのまま薄い布団の上に自身を放り込んだ。 「あの餓鬼、想像以上にヤバい奴だったな…」 本来なら彼の軽防具も貫いて、あの場で鮮血が吹き出している筈だった。 だが獲物の硬さも去る事ながら、何よりもこうなってしまった要因は彼の素早さにあった。 そもそも六には獲物を潰すつもりは毛頭無かった。 三双の爪に無理矢理刀身を当てられ、刀自身に奇妙な負荷が掛かってしまった。 結果、刀は使い物にならなくなり、子供一人切れないまま終わってしまった。 恐らく、少年の防衛本能が無意識にそうさせたのだろうが、彼が純粋に殺意のみで行動してたならば、間違い無く殺られていたのは自分の方だろう。 「寧ろ、餓鬼を送りつけてきやがった相手に感謝するべきか」 自分が狙われる理由は分からない。 が、心当たりはいくらでもある。 ただの字書きを葬る事で得をする人間など、自分にとっては数え切れない程居るだろう。 「ま、それが分かってて返り討ちにするんだけどな。だから、余計な事は考えない方が良いぜ。そこの餓鬼」 木桶が微かに揺れる音がする。 余程見付からない自信があったのか、動揺を隠し切れ無い様だ。 「悪いけどな、俺にはそういった闇討ちは通用しねーんだわ。何となく…な、分かってしまうんだよ」 瞬間木桶が破裂し、鉄砲の玉の様な勢いで少年が自分に向かって飛び出して来た。 刹那、荒家に金属音が響く。 ナイフと刀の鞘が交叉する。 押し戻す様に鞘を振ると、少年はがらくたの山に振り飛ばされる。 「うっ…」 背中を強く打ったのだろう、身体を反る様に呻いていた。 「一度見てるからな、もうその素早さも俺には無意味だ。オメーが攻め方を変えない限りはな」 そして、また六は布団に寝そべる。 寝息が聞こえて来た時、少年は思い知る。 どうやっても自分はこの男には勝てないのだと。 寝込みを襲おうにも、身体がこれ以上前に行かないのだから。 「こわい…こわいよ……」 少年はその場から動けない。 前に出る事は愚か、少年に後退の選択肢は無い。 戻っても待っているのは『制裁』と言う名の死だけ。 目の前で何度も何度も見せられた、ヒトがゴミ屑の様にバラバラになる。 慣れた光景とは言え、自分が同じ目に遇うのは嫌だ。 どうすれば良い? どうすれば良い? 「なぁ」 「………オマエ、起きてた?」 「いんや。さっさと寝ろうにも、そんな寝ている側でずっと膝組んで見ていられると落ち着いて眠れる訳無ぇんだわ。それよりも…」 身を起こし、明ら様に気怠そうな表情をこちらに向ける。 相当自分は邪魔らしい。 「帰れ無いんじゃ、無いだろうな?」 「な…」 何で、と言おうにも、言葉が喉の奥で凍り付いた様に出て来ない。 それだけで十分肯定の材料には成るのだが。 「俺に勝てないからと言ってのこのこ帰ろうものなら、まぁその時点でオメーの首くらい平気で吹っ飛ぶだろうからな」 「お、オレは…」 「誰だって死ぬのは怖い。命を狙われる側じゃ無く狙う側なら、そのしっぺ返しが余計に怖くなってしまう。人間って、そんなもんだろ?」 「オレは…オレは……っ!」 「おっと!」 鞘で二回、六に向かって少年が投げた何かを弾く。 それらは回転しながら床や天井に突き刺さる。 やはり鋭利に研がれたナイフだった。 「オレはまだ諦めない! 必ずオマエをコロス!! オマエの首を刈り取ってやる!!」 天井近くにある隙間を侵入場所にしていたらしい。 そこから顔を真っ赤にしながら犬の様に吠えた後、外へと飛び下りて行った。 砂利を踏む音が次第に遠くなって行く。 …本当に出直すつもりらしい。 「………あー、何だこれ。ライバル宣言?」 最早雰囲気に流されっぱなしだった六がようやく現状を理解する。 「ったく、散々暴れるだけ暴れやがって。刀どころか鞘まで無駄にしちまったじゃねーか」 取り敢えず、今後嵩むであろう修繕費の勘定をして、盛大に六は溜め息を付いた。 その拍子に、先刻ナイフを弾いた部分を中心にバラバラに欠けた鞘を見て、余計に疲れが溜まった。 「マジ、疲労で殺されるだろうなぁ」 それからは血の代わりに胃液が直接出てきそうな程神経を磨り減らす日の連続だった。 ・その壱 寝起きの一例。 「ふわあぁ…」 顔を洗う為に井戸の底から引いた水道の前に来ると、先ず足に何かが引っ掛かる。 「うおっとっと…。ぃい!?」 もう少し盛大に転んでいたら確実に首の軌道上を貫通する位置に透明なピアノ線が張ってあったり。 取り敢えず洗面台に隠れていた少年は開けておいたらしい壁の穴から退散する。 ・その弐 朝食の一例。 「さぁてと…ん?」 ただの秋刀魚の塩焼きの筈なのに、明ら様に突き出ている針。 割り箸で先端を掴んで、水の入った桶に放り込む。 すると、水面から紫色の泡が発生して桶がただの木の輪に変形する。 (何の薬入れてやがる…) ・その参 外出。 電車の中。 乗る場所と時間帯の関係でかなり空いているために、六は二人座席の窓際に座る。 「………」 その座席のすぐ下の空いた部分に明らかに居る筈の無い人間の殺気がぷんぷんと感じる。 「…ふん!」 「はぷぁ!?」 ゲートボールの要領で足を振ると、生暖かい部分に踵が当たる。 (ありゃ、鼻だったか) 続いてとあるデパートの展示場。 流石に無関係な人間が大勢居る場所では妙な罠は仕掛けて来ない。 物陰に隠れてこちらの仕事が終わるまで様子を伺っている様だ。 ただし― 「あの、六さん。あの植木の後ろに隠れている子は…?」 「あーその。親戚からしばらく預かってくれと言われたんだが、どうも人込みが怖いらしくて…」 「ママー。あそこにへんなおにーちゃんが」 「しっ、見ちゃいけません!」 バレバレだったりする。 ・その四 帰路。 「うおっと!」 「こら、避けるなぁ!」 「んなもん真面目に当たったら死ぬだろうが!」 地元駅から家に辿り着くまで、一方的な鬼ごっこが繰り広げられる。 ただし、オニ側には刃物投具の妨害付き。 3キロもの区間を六は刃物を躱しながら全力疾走する。 「こらぁ! そんな遊びすんなら余所でせんか!」 「テメェこれが遊んでいる様に見えるのか!」 「遊んでいる様にしか見えんわ。バカタレが!」 畑仕事の爺さんにも怒られたりもする。 まぁ要は迷惑極まり無い訳で。 「はぁ~」 数日間似た様な手口でずっと戦闘(笑)を交わしていると、いい加減それが日常になってしまうのだから恐ろしい。 今や六の一番の至福の時間は風呂釜に身体を沈めている時となっていた。 「あーくそ、老け込んだな。俺も」 湯気と一緒に溜め息も溶け込む。 とは言え、未だに気は抜けてはいない。 「ったく、よくまぁ飽きもせずに毎日毎日俺の所まで通えるよなぁ」 最早身を隠さず堂々と六の前に姿を現している少年に向かって、六はもう一度盛大に溜め息を零す。 どうやら直接観察した方が良いと言う結論が出たらしい。 (落ち着か無ぇ。しかし…) 「オメーもよくまぁこう毎日毎日頑張るよな」 「う?」 まさか話し掛けられるとは思わなかったのだろう、少年は素頓狂な顔をこちらに向けた。 「命係っているのは分かるけどよ、もう少し肩の力抜かねぇと色々としんどいぜ?」 「う、ウルサイ! オマエにオレの事なんて、関係無いだろ!!」 「ま、そうなんだけどな」 (あ~あ、どうにも平行線だな。まぁ、下手に好かれてもそれはそれで困るんだけどな…ん?) 「なぁ、オメー」 二度目にも拘らず、少年は六の声に震える。 (駄目だこりゃ) 「な、何だよ」 「おっと。いや、オメーずっと俺を追っかけ回してるけどよ。あれから風呂ぐらい入ってるのか?」 「あ…。そ、それは……」 「んなこったろーと思ったぜ。ほら、来いよ」 風呂釜の上から六は手を差し出す。 すると、少年は余計に困惑する。 「ほれ、オメーも入れって言ってんだよ」 「ば…馬鹿、オマエはオレの標的なんだぞ! 何でそんな事言うんだ!」 「だぁから、たまには肩の力抜けっつってんだよ。来ないんなら…」 「わっ!?」 言うが早いか六は何も身に着けずに風呂釜から飛び出し、少年の目の前に着地する。 そして、少年の来ている服を無理矢理剥ぎ取ろうとする。 「おら、おとなしくっ…!」 「や、やだやだ! 放せぇ!!」 「ジタバタしたら服が破れるだろうが! んな事になったら、オメー折角の暗器も意味無くなるぜ?」 そう言うと、少年はピタリと動きを止める。 (お、成る程な。少しこいつの扱い方が分かったかな) 「そうそう。そうやって最初から素直になれば良いんだよ。ほら」 ようやく観念した様で、少年は六にされるがまま、来ていた服を全て脱がされる。 最早一糸纏わぬ姿になると、六は不意に手を止める。 (こいつ、暗殺者の割に身体に傷一つ無い。てっきりそう言った趣味の奴等に良い様にされてると思ったが…俺の思い過ごしか? いや…) 「…何だ?」 「あ…いや、何でも無ぇよ。さっさと入れ」 近場にあった桶一杯に風呂釜の湯を汲み上げ、頭から少年にかける。 渋々少年は風呂釜へと身体を沈めて行った。 それに続いて六も風呂釜に入る。 元々一人用なので、釜の中は狭い。 どうやっても身体の何処かが触れ合ってしまう。 それが気になって仕方が無いのだろう、少年は落ち着きが無かった。 「そこまで露骨に嫌がる事無いだろが」 「ち、違う! だって…初めてだから」 「何が?」 「誰かと一緒に風呂入るの、初めてだから」 「ん?ちょっと待て。オメー両親とか居ないのか?」 「……………知らない」 今更になって六はそれが愚問である事を後悔する。 それからは暫く沈黙が支配した。 やがて六が「悪い…」と小さく呟き、それからずっと少年は六の胸に顔を埋めていた。 自分でも気付かない内に、六はこの少年を受け入れていた。 それが何から来るものなのか。 自分と同じ境遇を哀れむ同情からか、それとも― (あながち間違いじゃ無い…か) 「なぁ…」 「ん?」 今度は少年の方から問い掛けられる。 追いかけ回している時以外で彼から話を切り出して来る事は初めてだった。 「何だよ」 「オマエも、ずっとひとりだったのか? ひとりでずっと、こうやって生きて来たのか?」 「俺は…」 咄嗟に六は言葉を噤む。 しかし、ややあって再び口を開く。 「そうだな。オメーよりかは上だっただろうが、餓鬼の時に忽然と姿を消しちまった。何でそうなったのかは覚えて無いけどよ、多分死んだんだろうな。剣術も、我流だしな」 「…寂しかったりしなかったのか?」 「それもあんま分かんねーんだわ。気が付いたらこうなってたからな。何だオメー、寂しいのか?」 「ち、ちち…違う! 良いか!? オマエはオレの標的なんだ。いつか必ずオマエに勝ってみせるからな!!」 「へぇへぇ」 (いつの間にか目標が格下げになってんぞ) しかし、少年には黙っておく事にする。 翌日は珍しく少年からの攻撃は無かった。 それどころか、自分を追いかけて来なかったらしい。 平和で何より…と言いたい所だが、日常茶飯事になっていたものがこうも突然止まるとそれはそれで慣れないものである。 「なんつーか、退屈なんだよな」 まぁ言っていても仕方の無い事なので、夕食を終わらせて早めに寝る事にする。 「…って言った矢先にコレかよ」 塒に入った途端、心地良さそうな息遣いが耳に入って来た。 この日たまたま敷っ放しにしていた布団に目をやると、案の定そこにはいつもの少年が居る。 ただし仰向けで。 「全く、人の布団に仕掛けようとしてそのまま寝るなっつーの。ま、無理も無いか」 幾ら暗殺者とは言え、結局はただのお子様に変わりは無い。 ずっとあれこれと試行錯誤して来たのだから疲れも溜まるに決まっている。 「だから、たまには肩の力抜けって言ったんだよ。まぁ…」 六は幸せそうな表情を浮かべて眠っている少年の隣りに横になる。 「たまにはこんなのも悪くは無いかな。何かこいつあったけーし」 かく言う自分も眠気にはそう易々と勝てるものでは無い。 ただ寝転んだだけで瞼が重くなって来る。 久々に、まどろみの海が心地良く感じた。 「ん…」 自分の周りの温度変化に気付いて少年が目を覚ましたのは、夜明けを前に最も闇に染まる時間だった。 そもそも自分が眠っていた事にすら気付いていない。 しかし、かけられている筈の無い布団と、それよりも自分の隣りで眠っている筈の無い六によって、否が応にも状況を認めざるを得ない。 自分は六の部屋で転た寝どころか熟睡していたと言う事に。 「………馬鹿」 六を起こしてしまわない様に、ゆっくりと布団から這い出る。 だが、自分が出た時に乱れた布団を直そうとした時、不意に腕を掴まれる。 「なっ…」 「絶対に出て行くんじゃ無ぇぞ。でないと…」 必要以上に声を押し殺し、動作も無い。 何故そうする必要があるのか少年には分からない。 しかし、六が背中に隠していた刀の鞘に手を掛けるのを見て、背筋が凍り付く。 「死ぬぞ」 刹那、何処からか飛んで来た投具を六は鞘で弾く。 舌打ちを鳴らして立ち上がる六を、少年は震えながら見ている事しか出来無かった。 分かってしまったから。 状況を理解してしまったから。 間違い無い。 今この家を囲んでいる無数の暗殺者達は六を抹殺しに来たのだ。 役立たずの自分と一緒に。 「オレ…ずっと……」 「痺れを切らしたんだろうな、どいつもこいつも殺気が尋常じゃ無ぇ。クソッタレ、こんなに沢山居るのにぎりぎりまで気付け無ぇとは…。流石、向こうも半端者じゃ無いって事か」 懐に何本か小刀を忍ばせ、六は震えている少年の頭に手を置く。 「一人になるなよ。絶対にだ」 「どう…するの?」 「このまま一気に突っ切る」 「む、無理だ! アイツ達はみんなオレなんかよりずっと強いんだ。だったら―」 「だったら自分が囮になって…か?」 「あ…」 徐に六は少年を自分の胸へと抱き寄せる。 同じ布団に潜っていた時。 一緒に風呂に入った時。 初めて感じた自分以外の人間の温もり。 「こんなに震えている奴が、何強がってるんだよ」 「お、オレ…」 「ったく。オメーそればっかりだな。良いか? 自分を犠牲にしてまで誰かを守ろうとするのはな、本当に好きになった奴だけにしておけ。誰かの為に自分が傷付こうとするな。そう言う世界で生きて来たんだろ。違うか?」 「好きな…人?」 自分に暗示をかける様に、少年は呟く。 抱き締めてくれている六の腕の力が強くなった事に気付いた。 「分かったなら、絶対離れるなよ」 「ま、待て! オマエはどうしてオレなんかを…」 「言ったろ。本当に好きな奴は、平気で命賭けれるんだよ」 「オマエ…」 少年の胸に、止めど無く何かが込み上げる。 あっという間に全てを満たされ、熱くて心地良くて。 いつまでも六と一緒に居たい。 そう思った。 「だったら、オレもオマエの為なら命を賭けられる。オマエとだったら!」 「…そうか」 「オマエが危なくなったらオレが助ける。命を賭けて」 「んじゃ、それ以外の時は俺が命賭けてようか」 「………うん」 扉を蹴破り、六は少年を抱えて月下の元へ飛び出す。 少年を袴の下に隠し、返り血を浴びせない様にする。 畔道を草鞋で駆け抜け、刃の雨を鞘を楯に突き進んだ。 追っ手の数は明らかに増え続けている。 その度に、六は速度を上げる。 「ちっ!」 だが六はその足を止める。 潮の香りが鼻を突いた。 「が、崖…」 「畜生、いつの間にか誘導させられていたのか」 「六!」 「くっ…!」 やはり疲労が溜まっていたらしい、茂みの中から飛んで来た投器に反応出来無かった。 「がっ…!」 弾丸の様に放たれたそれを躱す事も出来ず、膝の肉を抉られる。 「うぁ…あ……」 どす黒く染まって行く袴を見て、少年は震える。 じわじわとその範囲は広がっていった。 「へっ、こんなんどうって事無ぇ。…怪我、しなかったか?」 目許に涙を浮かべ、少年は何度も首を横に振る。 「そう…か……」 「ろ、六!?」 崩れる様に六は膝を折り、地面に片手を付く。 次第に視界が曖昧になり、身体中の力が一気に抜ける。 (あの投器、毒塗ってやがったな…) 「…おい」 「え…?」 「俺を置いて、オメーはここから飛び下りろ」 「なっ…」 息を荒くしながら、六は少年の耳元で囁く。 それが何を意味するのか、少年は即座に理解する。 「馬鹿! 出来る訳が無いだろ!!」 「このまま俺が一緒に居ても…足手纏い……なんだよ。良いじゃねぇか。本気で好きな奴の為に…死ねるんだからよぉ……」 「ば…馬鹿だ! オマエは…ホン、トに……バカ、バカだ………」 「三回も言ってんじゃ、無ぇよ…。泣き虫坊主が。くっ…」 少年に掛かる六の体重が一気に重くなる。 「六!」 息遣いも、最早掠れて来ている。 額に幾つもの汗の粒が浮き上がり、光っている。 気が付けば空は紫の黄昏を終え、水平線の彼方から朝日が顔を出し始めていた。 (光…夜明け……) 「これしか、無い…!」 少年は腰に掛けておいた金属の筒を茂みの手前まで放り投げる。 瞬間、暗殺者達は尋常じゃ無い程の光りに包まれる。 直前まで暗がりで瞳孔が開いていた人間にとって、この発光量は危険極まり無い。 誰もが動きを止め、その場に蹲り発光が収まるまで身動きが取れない。 ―筈だった。 その光の中、茂みの中を駆け抜けて行く者が居たからだ。 当然光が消えるのを待つ訳にもいかず、音を頼りに暗殺者達はその場に密集する。 だが、一瞬巻き上げる様な風が吹いた後、凄まじい熱量を持った熱風が暗殺者達を襲う。 その場に居た者はその熱風によって焼き付くされたか四肢の一部が…或いは全てが吹き飛ばされた。 残った暗殺者達は理解する。 標的の二人の策略に完全に乗せられたのだと。 とすると、二人は茂みには入らずに何か器具を使って崖の下へと飛び下りたのだろう。 手負いの人間を抱えているとは言え、少年も訓練は一通り受けている筈。 一人荷物になる人物が居たとしても、それは些細な問題だろう。 そうとなれば、追いかけなければ見失ってしまう。 次々と暗殺者が断崖に集まり、丁度真下に海が広がった辺りで先刻と同じ爆風がその場で吹き荒れた。 巻き込まれた者は先刻と同様。 そうで無くても近くに居た者は、余りにもの衝撃に耐え切れずに崩れる足場に飲み込まれる。 咄嗟の出来事に対応し切れず、落ちた者は落石の下敷になるか遥か下方の岩肌に打ち付けられた。 もうこれ以上二人だけに人数を裂く訳にもいかない。 まだ遠くへは行けない筈なので、残り少数の暗殺者は二手に分かれ、崖沿いに二人を探す事にした。 実際、暗殺者達の考えは正しかった。 二人は確かに遠くまでは行っていない。 寧ろ近過ぎる場所に居たのだ。 閃光弾で目眩ましを謀り手榴弾を茂みに放り込んだまでは良かったが、崖下に人がようやく通れる程度の空洞を見付けたのは幸運だった。 後はその真上にも爆薬を仕掛けるだけだった。 追っ手を一気に殲滅し、更にその入口も落石が塞いでくれる。 この空洞がどこまで続いているのかは分からないが、六の容体を看るには十分だ。 「何の毒か確かめないと、六が…!」 手頃な平たい岩に六を寝かせ、血に染まった袴を脱がす。 傷口からの腐食は無い。 しかし、異様な程に急速な力の低下。 軽度ではあるが毒物に良く見られる中毒症状。 これらの現状で考えられるのは、恐らく筋肉弛緩系。 標的を生け捕りにする時に使用する、矢毒の様な物だろう。 「六、大丈夫か?」 「う…ぁ…」 「喋らなくて良い。ゆっくり、少しで良いから、オレの手に触れてくれ」 少年が手の平を差し出すと、六はゆっくりと指先を少年の手に乗せる。 「オマエの名前、書けるか?」 指先が微かに震えていた。 それでも六は懸命に少年の手の平の上をなぞる。 書道半紙の上に書いたら路書きとは到底思えない様な字が浮かぶだろう。 だが、少年にとってはそれがこの上なく幸福に思えた。 六は助かる可能性は十分にあるのだから。 「じっとしてろ。無理をすれば毒が変に回って薄まらなくなる」 「あぁ…」 ようやく声も聞き取れる様になって来た。 簡単な解毒薬を傷口に注ぎ、後は傷口を塞いで落ち着かせておけば大事には至らない。 一段落終えて、少年は大きく息を吐きながら近くの岩に座った。 「ん?」 微かに証明用の蝋燭ランプが揺れる。 遠くから風が流れているのだろう。 取り敢えず酸素が切れる心配は無さそうだ。 (どこまで続いてるんだろう) 明かり無しでは歩く事すら不可能なこの切り立った山並みを吹き抜ける風の音。 まるで巨大な蛇の胃袋の様に、長く深い事が分かる。 六が回復したらどちらに進めば良いのだろう。 先に進むか引き返すか。 あの集団に仲間意識があるのかどうかは疑問だが、亡骸は処理しに来るだろう。 しかし、先に進んでもし道が途絶えていたら。 (もう、逃げ場は…無い) 一見逃げ切れた様で、実は自らとんでもない袋小路に入り込んだのかも知れない。 「オレ、間違ったのかな…」 誰に言う訳でも無く、少年は自分を卑下する。 それが余計に辛くなって、終には顔を伏せてしまった。 「なぁーにナーバスになってやがるんだ」 「ろ、六?」 「自分の判断に自信が持て無い様じゃ、暗殺者とは言えないんじゃないか?」 「それは…。い、いや…そんな事より! オマエはまだ大人しくしてないと駄目だろう!!」 怒鳴りながら立ち上がるも、六は小さく鼻で笑うだけだった。 それだけ余裕が出て来たと言う事だろうが、不完全な状態に変わりは無い。 何れにせよ、事毒に関しては何より身体に負担をかけない事が大切である。 それは薬学知識の全く無い一般人でも知る常識。 つまり、六はそれでも自分に何かを言おうとしている。 「やっと話を聞く気になったか。オメーが何をやっても俺に勝てなかった理由。端的に言ってしまえば、オメー自信が弱いんだよ」 「弱い…。オレ、が…?」 「勘違いするなよ。俺が言ってるのは言葉そのままの意味じゃ無ぇ。実力では十分に俺に勝てるだけの技量はある。ぶっちゃけ初っ端の切り合いはあのままの状態では俺は負けていた可能性の方が高かったんだ」 「そ…そうなのか?」 「あぁ。だがオメーは判断を誤り、俺を仕留め切れなかった」 「判断…」 「そうだ。念入りに計画された暗殺である程、イレギュラーな因子は加わり易い。万一の時に保険をかけておく事が重要だ。事実、オメーもそうだっただろうよ。だがそれを使用するかどうかは暗殺者自信の判断だ。…違うか?」 否定する言葉が思い付かない。 そもそも否定する事が出来無い。 六の言う事は全て正しいのだから。 「そう、判断。それが諜報活動が基本の暗殺者に必要とされる“強さ”だ」 「あ…」 自分の強さに自信が無い訳では無かった。 しかし、それは六の言う“強さ”とはまた別のものだ。 適材適所と言う言葉の通り、自分の秀でた部分を存分に生かせてこその“強さ”なのだから。 そしてそれを発揮する時は、正に今なのだろう。 「この先どうするかは、オメーに任せる。俺はそれに従う。そう言う約束だったからな」 それはつまり、六が自分の命をも自分に委ねてくれたと言う事。 …考えろ。 これからどうすれば良いのか。 どの選択肢が最良なのか。 「…先に、進もう」 「ほぅ。どうしてそう思った?」 「単純な話。来た道に戻っても、まずは岩をどかさないといけない。酸素の心配もあるけど、一番困るのは追っ手と鉢合わせする可能性がある事。あいつらはオレ達がこの中に居る事は知らないんだ。だから、反対側にあるかも知れない出口を見張られる可能性は少ない。だから…」 「よっし、合格だ。そんじゃ、専門家に案内は任せるとするか」 六の言った合格の意味を理解するのに少し時間が掛かった。 だが、六が理由を聞いた意味を考えると、何となく分かる気がした。 そもそもこの選択肢には答えが無いのだから。 必要な分だけ理由を用意出来れば、どちらも正解になってしまうのだから。 「…バカ」 「ん? 何か言ったか?」 「いいや。それよりも、無理に歩くなよ。かなり薄まってはいるみたいだけど、完全に消えるにはまだ時間が掛かるんだからな」 「へいへい」 何かぶつぶつ呟いている様だが聞かない事にする。 蝋燭ランプを持ち、奥へと進む。 闇は一層濃くなってくるに連れて、道は次第に広くなっていく。 足場も決して悪いものでも無い所を見ると、戦時中に住民が隠れる為に使っていたのかも知れない。 だとすれば、何処かに別の入口があっても不思議では無い。 「六、オマエはこの場所を知ってるのか?」 「いや、俺はこんな場所があった事は知らなかったし村で聞いた事も無い。うさん臭い言い伝えは数あれど、隠れ場がある様な話も無かった筈だ」 「そうか」 僅かな手掛かりでもあれば、追っ手はそれを頼りにこの場所を嗅ぎ付ける。 それが無いとなると、偶然何処かにあるかも知れない出口を見付けるか、死体処理に元の場所に戻った時のどちらかになる。 前者の確率はほぼ絶望的と見て問題は無いだろう。 「ん…?」 耳に微かな違和感を感じ、少年は足を止める。 「どうした?」 「何か、音…かな?」 「音? あいつ達か?」 「違う。これは…水?」 暗闇で方向感覚は狂っていたとは言え、360度も曲がってまた海に戻ったとは考えられない。 そもそも潮騒の音では無く、上空から一定量落ちる音。 つまり、この場合地下水脈か地上の穴から流れているかのどちらかになる。 「わぁ…」 思わず少年は感嘆の声を零した。 暗闇が晴れて一気に開けた場所に出ると、藤棚の様に絡み合った木の根の天井から降り注ぐ木漏れ日によって、小さな滝が光を乱反射させて辺り一体を照らしていた。 宛ら幻想とも言えるその場所は、少年にとってこの世に在るのが勿体無く思える。 「凄い…」 「流石と言うか、まだこう言う場所が残っているもんだな」 「なぁ、この根を使って上まで登れるか?」 これは技術面では無く、飽く迄六の容体を聞いている。 彼程の人間がこの程度の壁を登れないとは思えない。 事実、六は未だにかなり無理をしている状態なのだ。 そのような状態でロッククライミングをしろとはとても言えたものじゃ無い。 「無理を承知で聞いてるだろ?」 「当たり前だ。こうでも言わないと、オマエはすぐに無茶するんだから」 「へいへい。大人しくしてれば良いんだろ?」 「そうだ。ここの水はきれいみたいだから、ついでに傷口を洗っておくといい。 オレはここを登って外の様子を見て来る」 「あぁ、分かったよ」 軽く引っ張って根や蔦が腐っていない事を確認すると、少年は腰に簡単な器具を取り付けて崖を登り始めた。 上に登る程、風に揺れる木の葉の群れの音がする。 どうやら何処かの山の下に繋がっていたらしい。 「あれ?」 ふと、少年はある事に思い付く。 山林地帯を通る地下水脈。 一ヵ所だけ、そこから連想出来る場所があった。 「まさか…」 若干急ぎ気味に少年は崖を登り切る。 上に誰も居ない事を確認すると、少年は穴からひっそりと顔を出した。 「やっぱり…」 眼下に竹林が広がり、その間から覗く見慣れた藁葺屋根の荒家。 何よりそれに気付く切っ掛けとなった古井戸。 どう考えてもそこは六の家の裏手だった。 「戻って…来ちゃったんだ。ははは…」 複雑な心境が、自然と乾いた笑いを引き起こした。 (そうだ。六の家から治療道具を取って来れば…) 自分の下手な応急手当てよりは何倍も効果がある筈だ。 音を立てずに少年は穴から抜けだし、竹林に身を潜めながら六の家に近付く。 (見張りは…まだ戻って来てはいない。チャンスは、今しか…無い) 以前自分が逃走用に作った抜け穴から家の中に入る。 六が居ない間に一度この家を散策した事があるので大体の位置取りは覚えている。 必要最低限の道具だけを手早くかき集め、両手に抱えて少年は立ち上がる。 「これだけあれば十分だ。早く…がっ!」 振り返り様に腹部に重い衝撃が襲い掛かる。 息が詰まり、その場に立っている事すら出来無くなる。 (やっぱり、追っ手が……) 「オ…マエ……」 「あ~あ。だからオマエには無理なんだって」 薄れ行く意識の中少年が聞いたその言葉は、この世のどんなものよりも鋭く、冷たく思えた。 着ていた衣服は全て岩場に引っ掛けておき、六は冷たい泉に身を沈めていた。 真夏の炎天下でも、地下にその概念は存在しない。 普通の人間であれば足を入れるのも根気がいると言うのに六は平然と浸かっていた。 精神統一と言えば聞こえは良いが、六のこの場合は単に慣れているだけ。 子供の時から無謀な程に無理を重ねて来たのだ。 今更冷水ごときでどうにかなる程六の身体は脆くは無い。 「あー冷て…」 気晴らしに悪態は吐く。 「それにしても…」 少年が登って行った崖の上を見上げる。 「おおよそ三十分って所か。…遅いな」 差し込む陽の角度から時間を計測する。 既に真昼の高さだった。 「…まさか」 最悪の想像と言うものはすぐに思い当たるもので、それが六の頭の中を駆け巡った。 同時に、自分が今居る場所にも仮説が生まれる。 「あの馬鹿、まさか…!」 少年に無理はするなと言われていたが、その様な事を気にしている余裕は無い。 身体が濡れたままであるにも拘らず、六は服を羽織った。 少し考えればあの少年の行動は予想出来た筈だ。 左膝を怪我しているのも忘れ、一気に崖を登る。 予想していた通り、見慣れた景色が目の前に広がっている。 出来る限り気配を殺し、六は自分の荒家に近付く。 懐に小刀を忍ばせ、張付く様に扉に密着する。 物音は何も聞こえて来ない。 少なくとも、“動いている”人間は居ない。 (まだ残っているとして、一人か二人。まだいける…!) 勢い良く扉を開き、周囲を見渡す。 だがそこに人の影も気配も無い。 取り越し苦労で済めば良いが、それはそれで困るのだ。 あの少年がこの家に居ないといけないのだから。 「っと、これは…」 足に何かが引っ掛かり、六は足を止める。 「はさみと包帯。それに…」 部屋の奥の寝室へと繋がる廊下を見据える。 「…」 やはり足音を立てずに六は寝室へと進む。 部屋の手前で物陰に隠れ、中の様子を伺った。 「っ!」 仰向けに倒れている少年が目に入り、六は慌てて近付く。 「おい、大丈夫か! 何があったんだ!!」 「ん…」 少年の首の後ろを持ち上げ、軽く揺さぶる。 微かだが呼吸は正常な様だ。 だが、腹部が赤黒く染まっている。 「あいつ達が…」 「だろうな。しかし…」 部屋には争った形跡は無い。 同時に、誰かしらの人物が“出て行った”様子も無い。 「…で、だ」 「ん?」 微かに動いた少年の指の間に小刀が鋭く突き刺さる。 弓から放たれた矢の様に、畳の目に震えながら聳え立っていた。 「お前は一体何者だ?」 「…何言ってるのさ。オレはオレだよ。ジャックだ」 「へぇ。あの小僧はジャックって名前なのか」 「…」 ほんの微かに舌打ちをする音が聞こえた。 早々に詰めが甘いと感付いたらしい。 「そっか。あの馬鹿、自分の名前を明かして無かったんだ」 やれやれと少年はそのままの状態で両手を軽く上げる。 「もう一度聞く。お前は一体何者だ?」 「あ? あー“ボク”ね。さっき言ったじゃん。ボクは『ジャック』だって」 「はぁ? 何言っ…」 途中で言葉を区切り、六はある事に気付く。 髪も肌も声も、変装の類いでは無い。 完全に本人の物である事。 この少年の言っている言葉が本当なら、考えられる答えはただ一つ。 「双子、か?」 「御名答」 世の中には一卵性双生児と言われる双子が存在するらしい。 生物学にそれほど詳しく無いので良くは分からないが、その双子は若干の誤差はあれどほぼ同時に生まれ、瓜二つな姿をしている事が多いらしい。 彼達は、その典型的なタイプなのだろう。 「でも、良くボクがアイツじゃ無いって気付いたね」 「半信半疑だったけどな。まぁ、バラバラになった医療道具を見た時から予想はしてた」 「そっか。キミ達がどこに隠れてたか知らないけど、キミを手当てするためにアイツがこの家に来たのなら、先ずこの部屋には入らないからね」 「極め付けに言うとな、このような状況で仰向けに倒れている可能性は殆ど無いんだ。気絶させる方法は基本敵に三つ。薬を嗅がせるか当て身を食らわすか」 「後ろの首筋を討つか、でしょ? 返り血が飛び散った痕も無いし、それを処理した様子も無いから」 「はっ、分かってるじゃねーか」 不敵な笑いを少年は浮かべる。 この状況下において、明らかに余裕を表している表情だった。 「あいつは何処だ」 「へぇ、随分と入れ込んでるんだね。毒針を撃った時に思い切り庇っていたから、そうかなとは思ってたけど」 「あんまり調子に乗ってると、そのスかした顔に真っ赤な花が咲くぜ?」 冗談とも本気とも取れない口調で、六は少年の鼻先にもう一本小刀を突き付ける。 「怖い怖い。良いよ、教えてあげる。君達が逃げ回った林の中に、ボクの隠れ家があるからそこに来ると良いよ。あ、隠れ家なんて言ってるけど、来れば多分大丈夫だと思うよ」 「で、そんなに喋ってこのまま帰すと思ってるのか?」 「うん」 事も無げにこのジャックと言う少年は言う。 六がその余裕を浮かべている理由に気付いた時には、少年は突き刺していた小刀を抜き取り、鼻先の小刀を弾き飛ばしていた。 「ちっ…」 今更六はもう片方の手がお座なりになっていた事を後悔する。 「じゃあ、待ってるからね。六お兄さん」 少年は腰から何かを取り出し、それを床に叩き付ける。 それが先刻逃走時に使った閃光弾だと気付くと、六は両腕で顔面を覆った。 部屋の窓から少年が出て行くのを気配で感じ取る。 視界が解放されたのは、少年の足音がもう聞こえなくなった時だった。 「う…」 頬に冷たい水滴が垂れて、少年は目を覚ました。 瞼は開いた筈なのに、視界は狭く薄暗い。 恐らく、何処かの地下に連れて来られたのだろう。 「なっ…」 身体を襲う違和感に、そこがただの地下室で無い事を理解する。 両腕を頭の上で束ねられ、天井から伸びる鎖によって拘束されている。 更に、両膝にも一つずつ枷が取り付けられており、鎖が壁まで続いている。 若干の猶予はあるものの、弛みが足り無い。 膝を付いている今の状態では立ち上がる事が出来無い。 それでも何とか身体を前後に揺らしてみるが、上からの鎖が思っていた以上に短く失敗に終わる。 「無駄だって。身体に合わせて長さを調節してるんだから。体格が同じだから、簡単だったけどね」 何処か楽しそうに、自分の鏡像とも言える少年は鉄柵の向こうから話す。 そして、ようやくここがどういう場所なのかを思い知る。 「『ジャック』…」 「それはお互い様でしょ? 六お兄さんに教えて無かったんだね、自分の名前」 鉄格子を開き、『ジャック』は牢の内部へと入って来る。 その瞬間、足下に何も存在しない異様な錯覚を覚えた。 だが天井からの鎖ですぐに現実に戻される。 寒気とも取れるこの感覚は、明らかにこの『ジャック』と言う少年に対する恐怖以外の何物でも無かった。 「自分の手を汚してしまう事を怖がって、今まで一度も任務を完遂出来た事は無い。だからこの手は綺麗なままだろうね。だけど…」 「んっ…!」 言葉を遮り、『ジャック』は少年の顎を持ち上げて唇を奪う。 温く生々しい粘性のある水音が空間中に木霊す。 お互いの唇が離れ、透明な糸が二人の舌を一瞬だけ結んだ。 「かっ…は……」 噎返る様な奇妙な咳をする。 途端に力が入らなくなって、少年は地面に足が付いているのに宙吊りになる。 「よく知ってる味でしょ? 簡単な媚薬だもん。当然効果も大した事無いよ。即効性だけどね」 「う…ぁ……」 身体中が震え出し、燃え上がる様に体温が上昇する。 腰の辺りがむずむずと気持ち悪いのに、両手両足の自由を奪われている為に打つ手が無い。 「やっ…やだ……。ヘン、に…なる…よぉ……」 「“こっち”の方の才能は抜群だからね。だからさ、いくら手が綺麗でも、躰がこんなになってるんじゃ一緒なんだよ。ヘンタイだからね、お兄ちゃんは」 「ぅあ…痛……い。痛い、やだぁ……」 「あっれれ~? おっかしいなぁ。ちょっと痛い方が、お兄ちゃん好きだと思ってたんだけどな。間違って無いよねぇ。気持ち良さそうにこんなトコロ硬くしちゃってるんだからさぁ」 右足をジャックは少年の股間に押し当てる。 服を擦る様にして、軽く上下に足を動かした。 「うあぁっ! やっ…だ……」 「あ、服越しじゃ嫌なんだ。やっぱり直接やって欲しいんだよね。ホント、淫乱なんだから」 三日月の様な、銀色の軌跡が一閃、少年の目の前を走った。 ジッパーを下ろす時と同じ様に、少年の服は縦に真直ぐ開く。 そこには地肌を守ると言う機能を持たない、ただの布切れが地面に落ちる。 既に下半身を覆うものは、もう何も無い。 「まだ毛だって全然生えて無いのに…あ、それはボクも同じか。こんなトコロを硬くしちゃうヘンタイさんなんだもんなぁ」 すっかり露になった少年の幼根に足を押し当て、『ジャック』はけたけたと笑う。 それに否が応でも反応してしまい、血液が脈打つ。 「あっれれ~? イきそうなんだ。実の弟にこーやって足でグリグリされて、気持ち良いって感じちゃうんだ。すごいね、これだからヤなんだよ。このド変態が」 尋常じゃ無い勢いで血液が巡る。 それが巡り巡って、どんどん一点に集中する。 「…残念だけど、これじゃ終わらないんだよ」 「そん、な…」 「言い忘れていたけど、さっきの媚薬はちょっと特別でね。即効性の割に効き目が妙に続くんだ。一度溜まったものを出しちゃえばすぐに効果は消えるけど、こうやって中途半端に中断させちゃうと、媚薬としての毒素が消えないんだ。ほら、まだむずむずしたままでしょ?」 『ジャック』の言う通り、身体に纏わりつく違和感が治まらない。 それどころか、先刻よりも気味の悪いものが身体中を支配している。 「気味が悪くて仕方無いでしょ?催淫効果って、長引くと躰を蝕んでいくからね」 寒くて寒くて仕方が無いのに身体中が焼け付く様に熱い。 まるで質の悪い風邪をひいている様だ。 「はぁ…はぁ……」 「辛いだろうけど、お兄ちゃんは後回しね。どうやら、もう時間が無くなったみたいだから」 「え…?」 家にある小刀を持てるだけ忍ばせ、六は寝室の端に垂れ下がっている掛軸の前で星座をしていた。 神経を研ぎ澄ませ、座禅を組む。 最早穏やかな微風の音すらも雑音の一種と変わり無い程に、六の精神は一点に集中していた。 やがて、六は閉じていた眼をゆっくりと開く。 「頼む。お前だけが頼りなんだ。俺に…力を貸してくれ」 紐を引き、掛軸が床に落ちる。 すると、壁の中に埋め込まれていた刀の鞘が姿を現す。 「あの野郎にもしもの時以外に絶対に使うな、何て言われてたけどよ。なんつーか、さ。けじめはきっちりと付けておかねーと、って思ってよ」 刀に向かって六は言い訳を並び立てる。 しかし、結局あれこれと中途半端に言い淀んだ挙句、六は自分の頬を両手で叩く。 「あーもう俺らしく無ぇ! 俺はあいつを助けたい。だが、その為の刀も鞘も、もう俺には使えない。だから…もう一度だけ言う。力を貸してくれ!!」 手を伸ばし、思い切り鞘を掴む。 瞬間、身体中に電撃が走る。 影武者では無く、本物の主としての重圧。 何もかもを背負い込む器として、適格かどうかを試されている。 「ぐっ…!」 息が詰まる。 掴む手の血管が浮かび上がる。 身体中を巡る血液が沸騰する錯覚を覚える。 「うおおおぉぉぉ!!」 鉛が砕ける音が響き渡る。 その衝撃で、六の身体は大きく後ろに弾き飛ばされた。 背中を強く打ちつつも、六の表情に自然と笑みが沸き上がる。 「どうだ…抜いてやったぜ!」 宝物を見付けた子供の様に瞳を輝かせ、六は握り締めた鞘を月に見せびらかす様に空に掲げる。 流れる様に刀を抜くと宝石の様な刃は月身を映し、月光は刃を白銀の光に染める。 「いくぜ相棒。もう間違わないからな。俺の大切なものは、俺が守らないといけないんだからよ!」 少し欠けた銀円の世界へ飛び出し、森へと続く一本の畔道を只管に駆ける。 護るものを見付け、背き続けて来た自分に振り向き直った六に、迷いは何一つ無かった。 昨晩満月の夜、一生護ると誓った者を取り戻す為に。 一度目を背けた、本物の侍として。 鋼鉄扉を野菜同然に切り開き、六は牢部屋へと大胆に踏み込んだ。 重低音が狭苦しい部屋を揺らし、その振動が身体中に伝わる。 その本来有り得無い光景に少年も、『ジャック』ですらも戸惑いを隠し切れていない。 「よお、待たせたな」 「ろ、六…?」 「凄いね。あんな分厚い扉を綺麗にバラバラにするなんて。逃げ回っている間刀を抜く素振りを見せて無かったから、てっきり使えないと思ってたんだけど」 「使えなかったさ。そこに居る厄介小僧が見事に壊してくれたからな」 六が自分を見ている。 隠すものは何一つ無く、媚薬に淫れる自分の姿を、六はどう思うだろう。 「だがな、それが切っ掛けでこうやって力を得たんだ。悪くは無い駆け引きだろ?」 「へぇ、そんな実力あったんだ。それで、何?お兄ちゃんは彼をそこまで追い詰めておいて、全くとどめを刺せ無かったって事?」 「っ…」 「まぁ、そういう事になるな」 六が肯定するまでも無く、それは覆し様の無い事実。 まして、仕事上では仲間である筈の少年を人質として利用出来る程の関係を築いたとなれば、暗殺者達にとっては奇譚の極みであろう。 「何それ、超絶に面白く無いんだけど。暗殺者とターゲットがそんな関係になるとか、シナリオとして在り来たり過ぎて最悪じゃん」 「そうか? 一芝居くらい作れそうな気もするけどな」 「見に来る客なんか誰も居ないって」 深い溜め息を吐き、『ジャック』はやれやれと首を横に振る。 やはり、彼にとって今の状況は非常に面白く無いらしい。 「あのさ、ボクは三文芝居を見たい訳じゃ無いんだけど」 「当たり前だろ。これは芝居じゃなくて、今現実に起こっている事だ。お前一人がうだうだ言ったって、どうしようも無いんだよ」 「分かってるよ。だって、余りにも下らないからさ。ぶっ飛んだ寸劇を見て放置される観客の気分だよ」 「それよか幾分マシじゃないか? 金は別に取って無いんだ。バカ高い入場料払うよりずっとお買い得じゃね?」 『ジャック』には、六がわざわざ自分が不快に思う言葉を選んでいる事に気付いていた。 当然、気付かれたのを承知の上で六は話続けている訳だが。 「で? 健気にも欠け落ち同然に愛し合った恋人を追って来たって訳だ」 「何だ。分かって俺にこの場所を教えた訳じゃ無いのか?」 「その通りだけどさ、正直半信半疑だったんだよ。それがこうも面白く無い方向に話が進むなんて思っても無かった。一体お兄さんは何をしたの?会ったその日の内に服剥ぎとって襲いかかりでもしたの?」 「んな訳無いだろ。単純に、放っておけなかったんだよ。それだけだ」 「そんなの…理由になって無い!!」 鉄格子に思い切り腕を打ち付け、『ジャック』は明ら様に逆上した声を上げる。 余程勘に障る言葉だったのだろうが、これは予想を遥かに超えていた。 「…野暮な事聞くけどよ。お前達の家系に双子に関する言われでもあるのか?」 「あ? 無いよ。そんなもの」 「ずっとお前を見ているとよ、ずっと引っ掛かるんだ。お前は…」 「言うな!」 「『ジャック』…」 「その名前で呼ばないでよ! 嫌に決まってるだろこんな称号。ボクは“ボク”でありたいんだ。双子の弟だから、本当はお兄ちゃんがなる筈だったのにさ。余りにも人を殺すのに向いて無いからって何もかもをボクに押しつける。こんな呪われた烙印なんか…いらない……」 『ジャック』の言葉の末尾が枯れていく。 床に崩れるのを二人はただ見ているしか無い。 「おい。『ジャック』と言う名前に何の意味があるんだ?」 鉄格子の向こうに繋がれている少年へと向き直す。 俯くも少年は口を開いた。 「『ジャック』の名前はオレ達の組織の総轄の役割を持つんだ。総轄…と言うより実質的な権限を全て担う」 「早い話が、その暗殺集団の筆頭になるって訳だ」 「そういう…事……」 「おい!」 六は鉄格子を開き、地に伏せている『ジャック』を尻目に少年の元へと駆け寄った。 先刻の要領で鉄枷を切り落とし、崩れ落ちる少年を自分の胸に受け入れた。 火種でもあれば引火してしまいそうな程に少年の身体は熱かった。 「薬、か?」 「へい、き…。自分で…何とか出来る、から」 「わかった。取り敢えず、その辺に隠れてろ」 「うん…」 部屋の脇に少年をゆっくりと降ろし、六はもう一度鉄格子の中へと入る。 「ほら、俺と戦いたくて呼んだんだろ?さっさと始めようぜ」 「………そうだね。そういえばそういう話だったよね」 「ん…?」 ゆらゆらと不安定な体制のまま起き上がり、『ジャック』は六を見据える。 灰色に濁った光を帯びていない瞳に、六は一瞬息が詰まる様な感覚を覚えた。 間違い無く、それはこの『ジャック』と言う暗殺者に対しての恐怖。 寧ろ、この暗殺者の抜殻同然な独特の威圧。 無機質で全く生気を感じ無い、こちらが失明してるのではないかと思ってしまう。 「この餓鬼、マジでヤバい…」 「どうしてお兄ちゃんばかり楽になろうとするの? どうしてお兄ちゃんだけ幸せになれるの? あんまりだよね。ボクはお兄ちゃんが何も出来無いからこうやって頑張って来たのに」 「オメー、まさか…」 「羨ましくて羨ましくて仕方が無いよ。誰かを好きになれるなんて。ボク達には許されて無いのに。ボク達は、陽の光の元に出たらいけないのに!」 「くっ…」 刹那、小気味の良い金属音が跳ね上がる。 瞬き一つの間に『ジャック』の銀色に光る爪鎌と六の刀が交差していた。 鍔競り合いの状況から見ても、不意を突かれた六は明らかに不利であろう。 「どうしたのさ、もっと頑張ってみてよ。もっと本気出してみてよ。それでお兄ちゃんを守るんでしょう!? 守ってみせろよ!!」 「ってめ…!」 地面と足の中心に力を入れ、一気に爪鎌を押し返す。 その勢いを殺さずに、六は『ジャック』に当て身を食らわす。 「うぁっ…!」 体制を崩し、『ジャック』は後方の壁にぶつかるまで床を転がる。間髪入れずに六は『ジャック』の動きが鈍った隙に踏み込む。 横たわっている『ジャック』の腹部を目掛けて刀を突き出し、地面を蹴る。 だが、触れる直前に『ジャック』は六の突きを飛び越し、六の背後に周る。 咄嗟に六は懐から小刀を取り出し遮二無二後方へ振る。 「っ!」 紙一重で『ジャック』はそれを躱す。 振り出しの間合いに戻り、お互いの視線は研ぎ澄まされ、完全に相手だけを捕らえていた。 「く…」 「流石、何人も暗殺者を返り討ちにした実力はあるね。今の所互角…いや」 右手で左肩を押さえ、『ジャック』は壁に凭れる。 「ボクの方が…下か」 押さえている手の指の隙間から僅かに血が流れていた。 「…凄いね。自分が傷付けられてたなんて気付かなかった」 「そうでも無いさ。ほら」 そう言って、六は親指で自分の首を指す。 その部分が仄かに紫色になっていた。 「触れられた覚えは無いが、そうだとしたら俺の首に風穴位は空いていただろうな」 「じゃあ、本当に…」 「互角…だな」 お互いの頬に汗が伝う。 振り出しに戻った、と言うのは実は正しく無い。 正確には身動きが取れ無いのだ。 膠着状態に陥り、下手に手出しをする素振を見せれば互いの得意な高速技に返り討ちに遭うのは目に見えている。 (さて、どうする…? 壁に凭れ掛かってはいるが、スピードは向こうの方が上だ。下手に動けば俺の方が膾斬り確定だな) 「余計な事考えないでよね。こんな状態でもボクの方が有利なんだから」 彼の言う通り、最善でも引き分けの状態である。 それが飽く迄“正攻法であるのならば”。 (こいつはもっと効果的に勝てる方法があるのに、それを使わないところを見ると…。やっぱ考えられるのは、アレしか無いか。だが…な) その効果的な方法を潰す真似は、何がなんでもやりたくは無い。 それこそ自分はあの少年を守る意味と権利を全て失うのだから。 そう。 それはこの『ジャック』もまた同じなのだ。 となれば、お互いにこうして刃を交える理由は本質的には無い筈である。 (それでも戦いを止めないのは―) 戦い抜く事で得るものが違うから。 「…馬鹿野郎が」 掃き捨てる様に小刀を投げ、六は刀を構える。 「良いぜ。乗ってやるよ、この死合いによ」 「…勝てないって分かってるのに?」 「ほら、良く言うじゃねぇか。男ならどんな困難にも立ち向かわなければならない時があるって言う言葉がよ。今が正にその時なんだよ」 真顔でどこか一本筋の通っていない言葉に思わず『ジャック』は一瞬唖然とする。 しばらく固まった後、思わず吹き出してしまう。 「何それ。良くそんな恥ずかしい事平気で言えるね」 「ま、こればっかりは濁しても仕方無いからな。だが、我ながら使い時な言葉だとは思うぜ?」 「本当だね。在り来たり過ぎてダサいけど、こう言う時だから使うとかっこよく思えたりするんだろうね」 「言ってくれるじゃねぇか。そんじゃ…いくぜ!」 六の動きに合わせて…いや、対応して『ジャック』は爪鎌を構える。 六の攻撃は明らかに一点に集中していた。 剣戯の達人であるが故に一番手薄な部分を狙う。 だから『ジャック』は六の剣筋を見切る事が出来る。 そこに先手を打てば確実に六を仕留める事が出来る。 ―筈だった。 「え…?」 鋭い軌道を描いていた『ジャック』の爪鎌が動きを止める。 六の剣筋は、明らかに自分へ向けてのものでは無かったからだ。 『ジャック』が見定め切れなかった刀は『ジャック』の髪先を僅かに掠っただけで、壁に当たる直前で動きを止めた。 木の葉の様に『ジャック』の髪が地面に舞い落ちると、『ジャック』はその場に崩れ落ちる。 「何、で…?」 「分かり切った事聞くなよ。守る奴がオメーにも居ると分かった以上、オメーも死なせてしまう訳にもいかないだろう」 ほんの一瞬、『ジャック』の身体が僅かに震える。 それが図星を突かれた証明になるのは言うまでも無い。 「そうなんだろ。オメーもあの小僧を守る為に今こうして俺と戦っている。だが、その意味はまるで逆だ。邪推でしか無いけどな」 「何が…何が同じなのさ。何が逆なんだよ!」 「あの小僧を守る一番の方法は、あいつを死んだ事にしてオメーが組織の筆頭になる。そうなってしまえば、あいつを組織から逃がすのはたやすくなるだろう。 だが、あの小僧が組織を裏切り、標的だった筈の俺とつるんでいる今のこの状況はあいつにとってもオメーにとっても非常に立場が危うい」 「…」 「だから単独行動を取ってまであの小僧を連れ去ったんだろう。そして…」 「そして、ボクはその邪魔者であるお兄さんに勝負を挑む」 六の言葉を『ジャック』は引き継ぐ。 六が話している間、『ジャック』は俯いたままだった。 「そうだよ。お兄ちゃんは本当に甘ちゃんだから、ボク達の世界ではどうしても生きて行けない。だけど籠の鳥みたいに匿っても、周りの好奇の目はお兄ちゃんに向いてしまう。 だからお兄ちゃんに最初は単独で任務を与えたんだ。当然、何かあった時にはすぐに出れる様にはしてたけどね」 「成る程な。奇妙だとは思ったぜ。どうして子供が単独で乗り込んで来たのかがな」 「だろうね。結局、何もかも上手く行かなかったよ。お兄さんは殺せない。それどころか、お兄さんとくっついてるんだもん。流石に残党共がお兄さんの家を包囲した時はヤバかったよ。 裏切り者と認定されて、本気で手出しが出来無かった。ボクまで怪しまれたりしたら、それこそ何もかも終わりだったしね。だけど…」 ゆっくりと爪鎌を取り外し、『ジャック』は六へと微笑む。 それが六の胸を突き刺す様な気がして、何かが脳裏を過ぎる。 「お兄さんが居るから、もう大丈夫だよね?」 「何?おい、まさか…」 「駄目だ、六!!」 物陰に隠れていた少年の声は、『ジャック』に届く前に掻き消えた。 不発した花火の様な音がして、少年の声を完全に遮ってしまったからだ。 「『ジャック』!!」 『ジャック』の腹部から、赤黒い鮮血が滲み出す。 その量は見た目よりもずっと多く、間違い無く傷口を塞いだだけでは助からないのが分かる。 刃物による切り傷では無く、明らかに内側から抉り開いた痕が生々しく無残な様子を引き立てていた。 「何で、だよ…」 真っ赤な海が広がって行く。 その中心に血を分けた実の兄弟である筈の二人が、こうして傷付いている。 「嫌だ…。嫌だよ! こんなの、嫌だよぉ…」 「だって、ボク達…一緒に居れない…。一緒に普通に、生きられない……から……」 「どうしてだよ! オメー達、兄弟何だろうが! 血を分けた、たった一人しか居ない兄弟なんだろうがよ!!」 「あはは…優しい、ね」 先刻の様な笑みを『ジャック』は浮かべる。 皮肉にも、それが本来彼たちの歳相応の表情に見えた。 「ほら、ボク達は…結局どっちか…ね」 片方は生きて、片方は死んでいなければならない。 隠し通すにも、死んでいる側が枷にしかならないなら。 恐らく『ジャック』の下した結論は自らを枷と認識してそれを壊すと言う事。 それが愛して止まない兄の為と言う事だろう。 「ふざけんな! オメーが…オメーが居るから小僧も生きて行けるんだろうが! オメーが今まで頑張って来たから…」 「もう、良いよ…六」 六の袴を握り締め、少年は六にしがみつく。 それで袴が血に汚れても、六は何も言わなかった。 「約束、覚えてるよな」 「当然だ」 「そうか。じゃあ…」 『ジャック』の背中と膝を抱え、少年は立ち上がる。 振り向き様に、少年は呟いた。 「守って、くれるよな?」 「あぁ。俺は守る為にこの刀を振り続ける。『ジャック』、オメーの為に」 「六、泣いて…」 「オメーがその手の中にある大切なものを守る為に、オメーはオメーの知ってる限りの『ジャック』を背負う権利…いや、義務がある。だからオメーは『ジャック』だ」 「…分かってる。オレはもう“オレ”じゃ無い。『ジャック』だ!」 「…良いのか?」 「構わない。さっさとやってくれ」 荒家から少し離れた場所で、二人は初めて二人で生命の共有を誓った場所を眺めていた。 ジャックの手元には簡単なスイッチが握られていて、親指一つ動かせば簡単に入る様になっていた。 そこ荒家まで伸びる一本の導線。 ジャックの手は小さく震えていた。 「ほら、それを押さないと先に進めないんだろう? だったらためら躊躇う事無いじゃねぇか」 「だって、さ…。あの家は六の大事な居場所なんだろう?」 「良いんだよ。俺には、な」 「どういう事だ?」 「それ押し終わったらいくらでも教えてやる。ほら、いくぞ」 「うぁ…」 徐に六は自分の手をジャックのスイッチを持つ手に添える。 それだけでジャックの心臓の鼓動は一気に跳ね上がった。 「いくぜ」 「………うん」 小さなボタンを二人で同時に押す。 しばらくすると六の荒家から黒い煙が立ち上がり、瞬く間に真っ赤な炎に包まれる。 ジャックはその燃え盛る炎の中にスイッチを放り込んだ。 「ま、これでしばらくは時間稼ぎが出来るな」 「確かに、アイツ達からの追跡は途絶える。だけど、これからどうするんだ?」 「隠れ家なんかいくらでも持っている。それでもこの荒家に戻って来るのは、俺なりにここに思い入れがあったんだろうな」 「だったら…!」 吠えるジャックの言葉を六は直接手で遮る。 その表情に後悔の念は少しも見えなかった。 「そういえば、どういう事なんだ?」 「あ?」 「さっきの話。オマエにとっての大切な居場所」 「あぁ、その事か。簡単な話だよ。俺にはお前が居ればそこが大切な居場所になるんだ。ほら、何の問題も無いだろ?」 「ばっ…!」 他人が聞いても赤面してしまいそうな台詞を、六は事も無げに言う。 それも、当の本人であるジャックに向かって。 「お、オマエ…! 良くそんな恥ずかし過ぎる言葉を普通に言えるな!!」 「おーおー、耳まで真っ赤だな」 「う…五月蠅い! バーカバーカ!!」 茹蛸の様に真っ赤になっていたジャックを六は最初は面白がっていたが、流石に少し頭に来たらしい。 ジャックを捕まえようと手を伸ばすも、ジャックは持ち前の素早さでそれを掻い潜る。 「てめ、この野郎!」 「何だよ、六が悪いんだろ!」 「前から思ってたがオメーは俺に馬鹿馬鹿言い過ぎなんだよ!」 「言われる様な事ばっかりするからだ、馬鹿!」 「ほぉ…なかなか良い度胸だな。その喧嘩買ってやるから待ちやがれ!!」 「捕まえられたらいくらでも売ってやるよ!」 そうして、二人はまたいつもの様にお互いを追いかけ回す。 ただし、鬼が入れ替わっているが。 忠誠を誓った侍と、守衛の任務を契約した暗殺者。 死と言う臨界点を狭間に生きる二人の、長過ぎた馴初め。
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天緑市民ドリミー コモン 自然 コスト2 パワー1000+ ナチュラティー ■ブレシグターン ■このクリーチャーは攻撃できない ■自分のナチュラティーのパワーはバトルゾーンのナチュラティー1体につき+1000される。 (F)戦いは戦士とかに任せときゃいいの! 私達は応援するの。 - 天緑市民ドリミー 作者:ソウル 評価
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二つ名:金緑の勇者 本名:忘れた(親しい人間からは旦那、兄貴、金ちゃん) 身長:182cm 体重:74kg 右利き 外見年齢:25歳 装備:女神に何年か前に褒美で貰った特別な白銀剣 伊達眼鏡(勉強等を教える時につける、雰囲気アイテム) ・貰った設定 光の強さで瞳の色が緑か赤に変わる不思議な瞳の持ち主。 飄々としていて多少のことなど笑って済ませる。 勇者としてずいぶん長生きをしているようで、ゲームの事についても粗方把握している ○金緑の勇者とは 女神と邪神のゲーム、勇者と魔王の戦いの最初期に生まれた勇者の一人。 歴戦を潜り抜けてきたので勇者、魔王の間でも存在が割と知られている。 単独での魔王討伐経験も何度かあるが、現在は他の勇者と組む事が多い。 また、女神から新人勇者に年長者として色々教えて欲しいと依頼されている。 元々世話好きで明るく気さくな金緑の勇者は、その事については楽しんでいる。 教える事は、簡単な勇者としての心得、旅の心得、移動する上で気をつけるべき場所など。 尚全ての新人勇者に関われる訳ではない。 女神を信仰していないが敵対もしていない。笑顔と暖かさの奥にあるものを知っているのが理由。 女神とはお互い笑顔で会話するが、お互い本音を話してないのを意識している関係。 ○性格や人物像 ・飄々としていて明るく、お人よしでよく笑い、人懐っこい。 ・楽しい事が好きで、一緒に笑ってお酒を酌み交わすとすぐに打ち解ける。 ・タバコは吸わない。酒は強く、味の品評に定評がある。 ・自分でも、もうどれだけ生きたか分からない。 ・単純そうな勇者や子どもをからかったりして、怒らせるのが好き。 でも、真剣な時はどんな相手だろうと話を真剣に聞く。 ・普段は好戦的ではないが、戦い自体は好き。白熱するとテンション上がる熱血タイプ。 また、何かを護るための戦いには躊躇しない。 ・髪は簡単に結んでいる。洗える時は毎日洗っているので割とサラサラで金色に輝く。 子どもにたまに引っ張られては怒って追い掛け回したりする。 ・魔王や女神には軽い敬語で話す。仲良くなった勇者には馴れ馴れしい。 ・よく目の煌きや変化を近くで見せてといわれるが、美人相手だと抱き寄せて見せる。 が、誰かしらが止めろ!ってツッコミを入れて阻止するシステムが確立されている。 ・魔王に関しては、ゲームの事情をある程度知っているので今はそこまでの敵対意識は無い。 無害そうだったり、気の合いそう魔王なら争わずにスルーしたいなと少しは思っている。 ○勇者としての行動以外 ふらふらと旅をしながら世界を回っている。新人勇者を連れている事もある。 各国に知り合いがいて滞在中はそこに顔を出して酒を飲んだり家に泊めてもらっている。 そのお礼に仕事を手伝ったり、子ども達に簡単な護身術や勉強を教えたり旅の話をしている。 どちらかというと、教師というよりは親戚のお兄ちゃんが家庭教師に来た的な感じ。 また、今年収穫した作物やワインの品評などもしている。それを肴にまた馬鹿騒ぎするのだが。 ○故郷について 中世的ファンタジーのような世界。故郷と呼べる国はそんな世界にあったが滅んでいる。 その土地に新しく人が来て村ができており、そこを金緑は第二の故郷にしている。 美味しいお酒と芋料理、皆で助け合い、夜の星が綺麗なこの村に一度お越しください。 ☆戦闘 ◎能力について ○未覚醒時 授かった勇者としての能力は、『倒した魔王の世界から得られるエネルギーが自身の力になる』能力。 任意でエネルギーを受け取らなかったりは出来ず、強制的に流れ込んでくる。 本来勇者の世界の繁栄などに使われるエネルギーは当然少なくなるが、勇者の身体能力や魔力は格段に強化される。 これは勇者にする時に、金緑が魔王にも勇者にもなれる危うい状態だったので実験的に付与した能力。 いわゆるモルモットで、通常の勇者が魔王の世界のエネルギーを吸収すると、頭が可笑しくなって死ぬ。 女神は充分な結果をこの勇者が示さなければ、即勇者に授けた力を回収した後、抹消しようと考えていた。 倒す事で得られるエネルギーは徐々に増えて、現在その魔界エネルギーの半分ほど。 ただ、魔王を倒して強くなった勇者としての能力を100%出して戦うには覚醒する必要がある。 覚醒しないと肉体がエネルギーに耐えられずに破裂する。また、通常はフルパワー時の25%程度の力しか出せない。 また、覚醒しなければ特別な能力を使うことは出来ず、身体能力と技で戦う。 最初は相手の強さや動きを観察しながら、回避やカウンターで反撃する。 カウンターは経験と動体視力から繰り出され、相手の接近を許さない。 遠距離攻撃や簡単な魔法なら、見切れれば斬り落せる。 ○覚醒時 【スペクトル】というエネルギー体を腕の宝玉から放出し、自身と合体させる事で覚醒状態に至れる。 覚醒するとスペクトルがカラータイマーのように胸部に装着され、纏めた髪が解ける。 覚醒可能条件は、相手を認めて戦う事を心から決心した時。 覚醒した時に新たに付与される能力は『自身のエネルギーの性質を変化させる事が可能になる』能力。 エネルギーの性質変化とは、自身のエネルギーを女神のエネルギーか邪神のエネルギーに変化させる事が出来る。 現在どちらの性質かは、スペクトルの色によって判断する事が可能で、基本的に青緑と赤の二色になる。 自分の意思で性質は変えられる。変化は一瞬でタイムラグ1秒。 胸のスペクトルが青緑に輝く時、目の色と髪の色も青緑色に変化する。 青緑色時の性質は女神で、純粋に勇者として100%の力を使用することが可能になる。 全身から魔力を放出し、魔力に触れた者を一瞬で居合い切りで切り裂く。 また、白銀剣に魔力を載せて斬撃を飛ばしたりたりする。連射可能。 使用した魔力はエネルギーから消費され、回復しない。 胸のスペクトルが赤に輝く時、目の色と髪の色も赤色に変化する。 赤色時の性質は邪神。性格が若干戦闘的で荒々しく、目つきが魔獣のような状態になる。 この状態は、純粋に敵を倒す事だけを考え、超接近戦で乱暴に剣を振るう戦闘スタイルになる。破壊力は桁違い。 攻撃速度も急激に上がるので一度防御に回るとラッシュ攻撃を受ける事になる。 どちらの色も共通して、1時間経過すると胸の【スペクトル】が強制的にはじき出され覚醒は終了する。 覚醒後のデメリットは、身体に反動のダメージと視力と目の色の一時的喪失。これらは使用時間の10倍の時間つづく。 デメリット時間の間は勇者の証を使う以外の魔法がつかえず、いかなる回復行為も効果がない状態になる。 胸のスペクトルが黄金に輝く時がある。今まで一度も変化させた事は無い。 黄金に輝く時は女神と邪神のエネルギーが混ざり合い、神に等しい半神エネルギーに性質変化可能。 全身が黄金に輝く以外は普段の金緑の勇者と同じ状態だが、存在が薄くなり威圧感はなくなる。 半神状態での攻撃は全てを光にし、抵抗できない。防ぐ事が出来るものは、女神や邪神位かもしれない。 動きも早くなり、自身が使用できる全ての技を使用できるようになる。 この状態になったデメリットとして、5分間の半神状態後今までためたエネルギーが全て消滅する。 当然女神から授かった勇者としての力も消滅するため、技を放った後金緑の勇者の存在も光になって消える。 ◎技について ○未覚醒時 ・ぱっと見診断:相手の実力を測る。やばそうならほどほどに相手をして逃げる。 ・スマイル:まぶしい。老若男女問わずつられて笑ってしまいそうになる。例外はある。 ・カウンター防御:その場デ動かず、相手の物理的攻撃に合わせて剣や体術で防御専念。遠距離攻撃も切り落とせる。 ・カウンター攻撃:相手に高速接近し、相手の攻撃を誘発、その攻撃にあわせてカウンターを行う。 ・逃走:全力で恥を投げ捨てて逃げる。仲間と一緒の時は仲間を先に逃がす。 ○覚醒時 ・スペクトル:掌サイズの光球を発生させる。色は青緑と赤に変化。覚醒を解く以外消す方法は無い ・アレサイト:女神状態限定。自身の周りに青緑色の魔力を帯び、触れた者を探知する。使用中は常時魔力消費。 探知された瞬間アレサンドラで攻撃されるのでアレサイトがある部分が金緑の攻撃範囲になる。 ・アレサンドラ:白銀剣に魔力を帯びさせ、斬撃を放出して相手を切り裂く。 斬撃に魔力が混ざっているので普段斬れないものにも攻撃可能。連射性能あり。魔力消費あり。 ・レッドラッシュ:邪神状態限定。驚異的な腕力と攻撃スピードで白銀剣を叩きつける。 防御されてもそのまま何度も叩きつける。 ・最後の5分:半神状態になる。 ◎キャラ背景 ○勇者になるまで 彼が生まれた時、世界はまだ平和でした。勇者と魔王、それもまだたまに風の噂で聞き始める程度の時代。 彼は生まれながらに特別な目を持っていました。それに親や周囲が気づくとたちまち噂になりました。 近隣の村からわざわざ実に来る人も居て、何か幸せを運んでくれる子どもなのでは、と崇められました。 優しく暖かい村人に囲まれ、人並みに恋をして、友を作り酒の味を覚え、彼は明るく元気に育ちます。 そしてそんな村の皆を守って恩返しをしたいと、成人した彼は仕事をマジメに手伝う好青年になります。 そんな彼の25歳の誕生日の夜。 ささやかな誕生祭りの中、ある女が村に現れました。とても美人でした。 その美人が彼に近づき、彼の目を見つめて舌なめずりした後、村人達にも聞こえるように言いました。 『噂どおりのステキな瞳。私のものにしてあげる。その頭蓋骨ごとね。邪魔をしたら殺すわよ?』 驚く村人の前で美人はボキボキと音を立て変身し、彼を片手で掴みました。美人は魔王だったのです。 逃げろ!と叫んだ彼でしたが、村人達は斧や鍬、箒などを持って立ち向かってしまいます。 皆、彼が好きだったのです。殺されたくなかったのです。魔王はにやりと笑い、村人を蹂躙しはじめます。 家も人も、全てが壊され、彼に人生最大の絶望が襲われ気絶した時、意識に女神が現れました。 【貴方を勇者に選びました。生き残り、魔王をを倒して世界を平和に導くのです。】 (何でもいい。目の前の魔王を倒せるのなら。俺に力をくれるなら勇者にでも魔王にでもなろう。) 【いいでしょう。新たな勇者の誕生です。今日から貴方は金緑の勇者です。】 魔王が全てを壊してから、気絶した彼を確認しようと覗き込んだ瞬間、目覚めた勇者に顔を殴られ目を潰されます。 ギャアアと叫び、怯んだ魔王に怒りに震えて涙を流しながら剣で斬り、首を跳ねて討伐します。 金緑の勇者は、悲しみと魔王の血に染まった廃墟と亡骸の中で誕生しました。 ○勇者になった後 廃墟になった村の近くに村人たちを埋葬し、旅立ちます。目的は魔王討伐。 魔王が居ると聞けば自ら事を省みず、問答無用で退治しに行きました。 負ける時もあるけれど討伐する事もあり、徐々に名声が広まります。 ある時、魔界で魔王を討伐に挑みました。激戦の末、相手の魔王に致命傷を与える事に成功します。 その時、ふと見渡すと何処かで見た光景がありました。 魔王に襲われた自分の村、あの惨劇とそっくりでした。そして自分が魔王と同じ事をしていることに気づきます。 致命傷の魔王は、この闘いのゲームについて知る限りの真実を動揺する勇者に怒鳴るように語り、息絶えました。 女神からは今回の魔王討伐を評価をされ白銀剣を貰いましたが、ただただ虚しいだけでした。 目標も失い、どうすればいいのか分からなくなり、廃人寸前の金緑の勇者は無意識に廃墟の故郷に向かいました。 そこには、かつてほどではないけれど小さな村がありました。家も数件建っています。 ボロボロの金緑の勇者に気づいた村人は、何も言わずに風呂に入れ、温かいご飯を作ってくれました。 彼らは語ります。自分達の村は壊され世界を新天地を探していた時、このステキな土地を見つけたと。 金緑の勇者も語ります。かつて自分の村があった事を。かつての幸せだった日々の事を。 村人達は言いました。 「今日からここを貴方の故郷だと思って欲しい。貴方は孤独ではないんですよ、おかえりなさい。」と。 人は簡単に死ぬが、力強い。儚いからこそ暖かい。 ボロボロだった金緑の勇者は、やっと何かから開放されたかのように癒されました。ボロボロと泣きました。 そして、何年も失われていた笑顔がその顔に戻りました。 もう何年も、何十年も前の話です。 その後、金緑の勇者は自然体に生きるようになりました。 村のために働きつつ、旅をするようになります。一つの場所に長居するとその村の人に迷惑がかかると思うから。 それに一つだけ、女神についてずっと考えている事がありました。 あの日、魔王に襲われたあの日。 なぜ村を滅ぼされた後に自分を勇者にしたのか?気絶するのをまっていた?軽い気絶なら何度もしたのに? 女神はあの日魔女が村を訪れるのを知っていたのではないか。それを利用して俺を勇者に選んだのではないか? 何のために?決まっている。魔王を憎み、より多くの魔王を倒させる強いコマを手に入れるために。 これは、ただの憶測です。違っている可能性の方が大きいんです。 が、女神は信用できない。その思いは忘れてはいけない気もするのです。 魔王討伐に関しても疑問や迷いもあるが、倒すべき魔王もまた存在するはず。自らの目で見極めたいと思いました。 これらの思いを胸に秘め、気楽に、楽しく。笑って生きていたい。今の彼はそう考えています。 そして、いつか自分に運命の時が来たら…。
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黒緑ブースト (KD2.0環境) デッキの概要 緑の基本戦術エネルギー加速に黒を加えたデッキ。 黒が加わった事によりエリカ・エル・ダクネイトの除去やパン食い競争によるリリース、佐久間榮太郎の才気などを利用する事ができる。 1.0環境からトーナメントの上位に存在していたデッキタイプだが、樋口琢磨、・・・・・・何があったんです?、立花利菜などの登場で大幅な強化を受けた。 結果、BCCサード・インパクトの上位を独占。トップメタとして環境に君臨する。 強力なデッキタイプゆえ、環境への影響も少なくない。 例えば静&犬山によって★枠を割かずに夢才気を8枚積む事が可能となった事から、勇気よりも才気の影響を受けづらいトラップや、手札が無くとも戦えるデッキに注目が集まっている。 参考レシピ サード・インパクト!優勝 黒 ユニット 30枚 緑 ユニット 24枚 パパ 4 植松小星 4 エリカ・エル・ダクネイト 4 幾原晴海 4 水着の静紅 4 レン 4 佐久間榮太郎 4 芳峰蜜香 4 イエモン 4 茉莉とアナ 4 ガーゴイル 4 樋口琢磨 4 水着の木乃 2 緑 ストラテジー 5枚 立花利菜 4 インストール 4 黒 ストラテジー 8枚 天使試験 1 パン食い競争 4 石鹸の記憶 4 計67枚
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読み チーロートウ 正式名称 別名 和了り飜 役満(副露) 牌例 解説 東刻子、6でチーした三色同順、頭1か9でのあがり。 成分分析 吃六東の54%は世の無常さで出来ています。吃六東の28%は砂糖で出来ています。吃六東の13%は回路で出来ています。吃六東の5%は信念で出来ています。 下位役 上位役 複合の制限 採用状況 参照 外部リンク
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「いいところに気がつきましたねぇ。 じゃあ、お教えしましょう。」 【名前】 緑大猿 【読み方】 りょくおおざる 【声(超バトルDVD)】 平野正人 【登場作品】 仮面ライダー響鬼仮面ライダー響鬼 超バトルDVD 明日夢変身!キミも鬼になれる!!仮面ライダーディケイド 【分類】 ディスクアニマル 【スペック】 全長:95mm全高:115mm重量:60g最大走行速度:時速60km連続稼働時間:90時間最大録画可能容量:20時間分 【所有者】 仮面ライダー響鬼 など 【仮面ライダー響鬼】 「サル」の魂がこめられたディスクアニマル。 緑色の円盤から、サル型のアニマルモードへと変形。 他の「ディスクアニマル」とは異なり、録画機能を有する。 知能が他のタイプよりかは高い上に力も強く、被害者の保護や護衛にも使われ、強力なパンチにて攻撃できる。 【仮面ライダー響鬼 超バトルDVD 明日夢変身!キミも鬼になれる!!平成】 喋る個体が登場、安達明日夢へ鬼の心得その8を教えた。 【仮面ライダーディケイド】 「ライダー大戦」では巨大化した個体が登場した。
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くんろく。 場所を九勝六敗の成績で終えること。 毎場所ハチナナで終えるとそろそろ叩かれるかなと思った大関がもう一つ星を買ってこの成績に落ち着く。琴光喜の得意技。 Blog http //blog.goo.ne.jp/mangabiyori/ 作品 作品名 URL 捨て鉢。 http //neetsha.com/inside/main.php?id=6233 cold chicken http //sky.geocities.jp/ss_cold_chicken/ 以下アンソロ作品 ロリ漫画アンソロジー http //neetsha.com/inside/main.php?id=5792 story=80 http //neetsha.com/inside/main.php?id=5792 story=87 名前 コメント
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六所神社 愛知県岡崎市明大寺町字耳取44 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (六所神社001.jpg) imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (六所神社002.jpg) imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (六所神社003.jpg) imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (六所神社004.jpg)
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雨竜院緑雨(うりゅういん りょくう) ■性別 女性 ■学年 1年 ■所持武器 武傘「チャルチウィトリクエ」 ■攻撃/防御/体力/精神/FS 攻撃力:5防御力:10体力:10精神力:5FS:0 ■FS名 冷静さ 特殊能力『緑のカーテン』 タイプ:瞬間型 効果1:防御力1ダメージ 5 範囲+対象:MAP全体全員 5 時間:一瞬 1 タイプ:瞬間型 効果2:能力休み解除 80 範囲+対象:自分自身 0.75 時間:一瞬 1 制約なし 10 FS:0 発動率:25% 発動率25% 成功率100% 能力原理 触れた物体を腐らせる緑色の雨を降らせる降雨能力。生きているものには無意味。 キャラクター説明 雨を司る一族・雨竜院家分家の少女。傘部の部員。翡翠のような美しい緑の髪を肩まで伸ばしている。 緑色の装飾品を好んで付ける傾向になる。 一人称は「わたし」他人を呼ぶときは男女を問わず「○○さん」と呼ぶ。 どちらかといえば口調も姿をお嬢様を思わせるが、性格は情熱的で冷静さに欠くところがある。
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らぶりぃろんぐすかーと(みどり) 入手法/作り方 ラブリィドレス(緑)、わける、1日 マーメイドスカート(緑)+ラブラブエプロン、熱する、ちょっと 作成アイテム 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS FAIL GREAT 猶予 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS 腐ったFAIL GREAT 腐り復活 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS FAIL GREAT 猶予 腐った上トレイ - 作り方 時間 SUCCESS × GREAT 名前 コメント